不適合者とアカマツの流血

 今日から庭師になった。

 

 なんで?と聞かれるけど、スーツ着たくないとかビジネスマナー覚えたくないとかデスクワークやだとか、ひたすらイヤなことから逃げていれば人は自然と庭師に行き着くものなのだ。

 

 絶対向いていないと分かっていながら、食わず嫌いはダメだろうと今年の1月から始めたサラリーマン生活。(サラリーマンと呼ぶには特殊な業界だったけど)

 

2年は頑張って続けてみようと思っていたけど、俺にそんな忍耐力と協調性は無かった。8ヶ月で辞めた。

 

「昼休憩いってきます」って言って、そのまま家帰って辞めた。

 

ダメなのだ。毎日革靴履くとか、社長が来たらピシッと立ち上がるとか、「こういうやり方だから」と明らかに不効率なルーチンを言われた通りに飲み込むとか、いわゆる「社会人」として当たり前のことがどうしてもできない。

 

気まぐれで自己中心的な性格ゆえに、自分が大事だと思えること以外にどうしても従うことができないのだ。

 

きっと病院にいけば何かしらの病名を告げられると思う。お医者さんが「現代日本で生きるのに向いてないから死んだほうがいいですね」と安らかに死ねる薬を処方してくれるに違いない。

 

そんな完全に社会不適合者な俺がやりたいと思えた数少ない職業の一つが造園業(庭師)である。

  

植物や樹木は造形や生体が神秘的。いい香り。名刺とか渡してこない。くだらない人生論を語ってこない。

 

そんな魅力的すぎる自然に関する知識を身につけ、仕事として活かせるような資格の一つに「造園施工管理技師」という国家資格があることを知ったのが約3週間前。

 

その資格を受験するためには最低でも2級には1年半、1級には4年半の実務経験が必要であり、とりあえずはその資格を取ってみようと造園の会社に入社した。

 

膨大な量の植物や樹木に関する知識を蓄えなければならないため、仕事やプライベートで直接触れた植物などの備忘録として使おうかとブログを始めてみた。三日坊主になる気しかしないけど始めてみた。

 

記念すべき初日にふれた木はアカマツソメイヨシノ、イロハモミジ、ゴールドクレスト、ゲッケイジュ(月桂樹)。どれも先日の台風によって折れたり倒れたりして剪定や伐採の必要があった木だ。

 

最初の仕事は、中学校の校庭で折れたアカマツを抜根した後に大きく凹んだ地面を平す作業。新しい砂で凹んだ部分を埋めたりする前に、ところどころに生えている赤ちゃんアカマツを切らなければならない。

 

社長に買ってもらったおニューの剪定バサミで小さい木の根元に刃を入れる。すると、樹皮からジワっと血のような液体が染み出して来た。

 

驚いて断面を見てみると、アカマツの樹皮のすぐ内側から円を描くように赤い液体が滲み出ていた。この液体を専門用語でなんというのか知らないが、アカマツの「アカ」の正体であることは明らかだった。

 

「生きてたんだなぁ」そんなバカな感想を抱きながらダンプカーに枝を放り込んだ。

 

そんなこんなで俺の新しい人生はスタートしたのだ。

 

今日ほかに印象に残ったことといえば、剪定後の月桂樹の葉っぱからやけにスパイシーでいい香りがしたこと。

 

調べてみると、葉にシオネールという芳香成分が含まれており、香辛料として利用されているらしい。またアルコール吸収抑制作用が認められ、欧州では毎朝2枚の月桂樹の葉っぱを食べると肝臓が強くなるという伝承療法があるとのこと(全部Wikipediaに書いてあった)

 

さっそく葉っぱをムシャムシャ食べてみようかと思ったが、初日からヤバイやつだと思われたくなかったので止めておいた。